緑の斜面が泣いた日――無許可開発と環境破壊の連鎖(1995年4月・愛知県瀬戸市)
1995年の春。バブル崩壊の余韻冷めやらぬ日本では、郊外の山林が静かに消えていった。愛知県瀬戸市では、斜面に食い込むような宅地造成が進み、山は切り崩され、谷は埋められた。地元住民が気づいたときには、すでに木々は伐られ、無許可での工事が始まっていた。
宅地開発業者は行政の許可を得ることなく、山の斜面を容赦なく削った。伐採と重機の往来によって地盤は弱体化し、雨のたびに土砂崩れの不安がつきまとった。さらに、長年湧水に頼ってきた住民たちの生活用水は濁り、生活の根底を脅かされた。市の調査によって違法性が明らかになり、業者には工事中止命令が下されたが、自然が受けた傷は容易には癒えなかった。
この事件は、環境影響評価制度(アセスメント)の不備を浮き彫りにした。全国的に制度の対象外であった小規模開発の脆弱性が明らかとなり、「点としての破壊」が連鎖的に生態系を蝕む現実が認識された。結果として、アセスメント制度の見直しが国会で議論され、地方自治体レベルでも条例化の動きが広がっていく契機となった。
瀬戸市の住民たちは、被害者として声をあげるだけでなく、自ら現地の監視活動を行い、環境保全を訴えた。彼らの行動は、やがて市民参加型の環境行政を後押しする力となり、地域から社会全体へと意識の波を広げていく。無許可開発という行為は、単なる法令違反ではなく、環境への暴力であり、取り返しのつかない犯罪行為であるという認識が、ようやく根づき始めたのである。
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