環境 北の海と里をつなぐ ― ホタテ副産物リサイクルの挑戦 1999年
1990年代の日本は、食品加工残さや漁業廃棄物の処理が大きな課題となっていた。中でもホタテの養殖が盛んな北海道南部では、貝柱を除いた内臓(ウロ)が大量に廃棄され、海岸線に積み上げられる光景が見られた。ウロにはカドミウムが含まれており、海洋投棄は生態系や漁場への影響が懸念され、処理コストも自治体や漁協を悩ませていた。
こうした状況のなか、渡島支庁管内の砂原町・森町・鹿部町の三町が協力し、道立工業試験場の技術を導入してホタテ副産物を堆肥や飼料に変えるリサイクル施設を建設する計画が進められた。年間約3500トンの副産物処理が可能とされ、地域漁業と農業を結びつける資源循環型のモデルとして期待されたのである。
当時、循環型社会形成推進基本法(2000年制定)を前に、地方自治体レベルで「廃棄物を資源化する」試みが各地に芽生えていた。都市部では容器包装リサイクル法の施行による分別収集が注目される一方、地方漁村では水産副産物をどう活かすかが喫緊の課題だった。ホタテ副産物を肥料や飼料として循環させる試みは、地域固有の産業構造に根ざした「地域型エコビジネス」といえる。
さらにこの事業は、農村にとっても有益だった。カドミウムを処理した副産物は肥料として利用可能であり、農作物の生産コスト削減にもつながる可能性があった。つまり、この取り組みは廃棄物対策であると同時に、地域経済の多角化、漁業と農業の共存を促すものであった。
1999年当時の北海道南部の動きは、単なる廃棄物処理の枠を超え、「海からの贈り物」を循環させることで地域社会の持続性を高めようとする、先駆的な挑戦だったといえる。
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