競馬場の花売り女たち――都市の周縁に咲く笑顔と商才（1980年代）

競馬場の花売り女たち――都市の周縁に咲く笑顔と商才（1980年代）

1980年代の東京、バブル経済の胎動を感じさせる繁華な都市の一角に、もう一つの世界が息づいていた。競馬場や場外馬券場という"男たちの戦場"の周辺で、花束を手に商いを営む女性たち。彼女たちは決してただの売り子ではなかった。短いやり取りの中で客の懐具合や気分を読み取り、買わせる言葉を投げかける。そこには、軽妙な話術と生活の知恵、そして生きるためのしたたかさが滲んでいた。
彼女たちは時に、裏稼業との曖昧な関係を持ちつつも、家計を支え、子を育て、東京という巨大都市の片隅で「花売り」という仮面をかぶりながら懸命に働く母であり女であった。場外馬券場に集う男たちが一攫千金の夢を追う一方で、彼女たちは日々の現実を足元から支えていた。張り詰めたギャンブルの空気の中で、笑顔と花を武器に彼女たちはしたたかに立ち続ける。
華やかさとは無縁の都市の周縁に、確かな生活の手触りと人間臭さが息づいていた。演出されない現実。都市の陰影に生きる女性たちの記録として、1980年代という過渡期の日本社会における"見落とされた風景"を照らす貴重な記録である。