Tuesday, June 3, 2025

声が瓦礫を止めた――仙台市・産廃処理場稼働断念の記録(1994年8月)

声が瓦礫を止めた――仙台市・産廃処理場稼働断念の記録(1994年8月)

あの年の夏、私は新聞の隅に載った小さな記事で、この町の運命が変わるかもしれないと知った。仙台市北部に産業廃棄物処理場ができる――そう書いてあった。誰もそんな話は聞いていなかった。町内会にも、回覧板にもなかった。まるで私たちがいないかのように、計画だけが独り歩きしていた。

私たちが暮らすこの土地は山と水に囲まれた静かなところだ。井戸水を使い、畑で野菜を育て、子どもたちは小川で遊ぶ。そんな当たり前の毎日が、処理場ひとつで壊されるかもしれない。そう思ったとき、胸がざわついた。

近所の人たちと集まり、話し合いを重ねた。署名を集め、陳情書を持って市議会に足を運び、説明会では疑問をぶつけた。「地下水が汚染されたら誰が責任を取るんですか?」「生活道路に毎日ダンプが走るのですか?」――でも業者はどこか遠い場所にいるような態度で、「安全です」「許可は取っています」とだけ言う。

私は怖かった。水が空気が暮らしが壊されることも。けれどそれ以上に怖かったのは、黙っていたら何もかも奪われてしまうかもしれないということだった。

数ヶ月後、業者は「諸般の事情で計画を中止する」と発表した。あの瞬間、私たちは勝ったのかもしれない。でもこれは終わりじゃない。誰かが声を上げなければ、この国では静かな町ほど危ない。そう感じた夏だった。

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