Tuesday, May 20, 2025

### ブギの夜を照らした旋律――笠置シヅ子と服部良一の創造の軌跡(1947年・西荻窪)

### ブギの夜を照らした旋律――笠置シヅ子と服部良一の創造の軌跡(1947年・西荻窪)

笠置シヅ子――本名・亀井静子。1914年、香川県に生まれ、大阪で育った彼女は、少女時代から歌と踊りに親しみ、13歳で松竹楽劇部に入団。やがてその稀有な歌唱力と身体表現を武器に、戦後の舞台に鮮烈な存在感を放つようになる。

そして1947年、運命的な出会いが訪れる。相手は作曲家・服部良一。ある晩、彼は中央線の終電近い満員電車に揺られながら、車内の騒音のなかでひらめきを得た。「暗い世相を吹き飛ばす音楽を」と心に決めていた服部の耳に、軽やかな、跳ねるような旋律が浮かび上がった。

電車を西荻窪で降りるや否や、彼は馴染みの喫茶店に駆け込み、ポケットからナプキンを取り出して五線を手書きし、一気に音符を書き上げた。その譜面こそが「東京ブギウギ」の原型である。

服部はこのナプキン譜面を携え、笠置のもとを訪れた。彼女は最初「なんやこれ、洋楽のまねごとかいな」と首をかしげたという。しかし一度歌い出すと、そのリズムは彼女の身体に見事にフィットした。服部は彼女の声の跳ね方や節回しを生かしながら、楽曲のテンポやキーを丹念に調整し、従来の日本歌謡にはなかった明るく自由な音楽が完成した。

こうして誕生した「東京ブギウギ」は、瞬く間に日本中を席巻し、敗戦の痛みと混乱の中にいた人々に、生きる活力をもたらした。続いて発表された「買物ブギー」や「ジャングル・ブギー」もまた、庶民の喜怒哀楽を軽妙洒脱なブギのリズムに乗せて歌い上げ、笠置シヅ子は「ブギの女王」として国民的スターの座に登りつめた。

女優としても、笠置は黒澤明監督の『酔いどれ天使』(1948年)でキャバレーの歌手役を好演し、「ジャングル・ブギー」を劇中で披露。翌年には主演映画『銀座カンカン娘』が大ヒットを記録した。

その後、2023年には彼女の生涯をモデルにしたNHK連続テレビ小説『ブギウギ』が放送され、再び世間の注目を集めた。

「シヅ子の声は、日本中を立ち上がらせるエネルギーや」――そう語った服部の言葉の通り、笠置シヅ子の歌は、時代を超えて人々の心を照らし続けている。その源流は、終電間近の中央線と、西荻窪の小さな喫茶店のナプキンに刻まれていた。

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