白い水の町――姉中の沈黙と痛みの川(1950年代〜1970年代)
富山県婦負郡姉中町。水道の整備が進まず、住民は神通川の水を炊事や洗濯に使っていた。だが、その水は白く濁っていた。上流の三菱神岡鉱業所から流された鉱毒、カドミウムが混じっていたからだ。誰もが水の異変に気づいていたが、口をつぐんでいた。やがて、農家の主婦たちの身体が壊れていった。骨がもろくなり、折れ、痛みに呻いた。イタイイタイ病。だが、町長も議員も、誰一人として企業に抗議しなかった。行政は沈黙した。高度経済成長の陰で、地方の命が削られていた。補償が始まるのは1970年代に入ってからだった。姉中町の白い水は、ただの汚れではない。政治の不作為と犠牲の記憶だった。今もその川は、静かに語り続けている。
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