Friday, May 9, 2025

雪と情念の声――石川さゆり、海峡と峠を越えた女の歌(1973年〜)

雪と情念の声――石川さゆり、海峡と峠を越えた女の歌(1973年〜)

石川さゆり――その名は、演歌という枠を超え、日本女性の心の襞を歌い続ける"声"として刻まれている。1958年、熊本の地に生まれた石川は、1973年に「かくれんぼ」でデビュー。アイドル的風貌と澄んだ声で注目を集めたが、彼女の真の輝きが放たれたのは1977年、「津軽海峡冬景色」であった。雪深い北国の駅、別れた恋人を想う女性の孤独を描いたこの楽曲で、石川は一躍、演歌界の頂に立つ。

その後、「天城越え」において情念の歌姫としての真価を示す。伊豆の峠を越えてゆく女の姿に託されたのは、倫理も命も越える愛の執念。こぶしは深く、声には憂いと決意が滲む。彼女の歌は単なる楽曲ではない。時代とともに深化し、椎名林檎との共作などで現代性も帯びながら、常に"女"を歌い続けてきた。その声は風となり、雪となり、今もなお、聴く者の心の奥底に沁みわたる。

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