Thursday, May 22, 2025

旅路の幕があがる時――「いい日旅立ち」と百恵の静かな決意(1978年)

旅路の幕があがる時――「いい日旅立ち」と百恵の静かな決意(1978年)

1978年、日本は高度経済成長を終え、穏やかな時代のうねりの中にあった。フォークが街に流れ、人々の価値観は「物」から「心」へと移行していく。そんな時代の空気を映すように、山口百恵の「いい日旅立ち」は誕生した。国鉄のキャンペーンソングとして谷村新司が書き下ろし、彼女の静謐な歌声が旅立ちの情景に命を吹き込んだ。

百恵は当時20歳。10代の栄光と苦悩を背負いながら、三浦友和との恋愛も公にし、芸能人生の岐路に立っていた。歌詞にある「私を待ってる人がいる」という一節は、彼女自身の未来への憧憬とも重なる。旅は過去を振り返り、同時に新たな一歩を踏み出す行為だ。「いい日旅立ち」はその象徴だった。

翌年、彼女は引退を発表し、武道館でマイクを置く。その決断は、芸能界という舞台から静かに降りる"心の旅路"の完結でもあった。この一曲は、彼女の人生そのものの序章として、今も私たちの記憶に残る。

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