ストリッパー物語と夢の中で踊る声――根岸とし江と舞台音楽の交差点（1980年前後）

ストリッパー物語と夢の中で踊る声――根岸とし江と舞台音楽の交差点（1980年前後）

1970年代末から1980年代初頭、日本の舞台芸術はただの娯楽ではなく、時代の断層を照らす媒介として力を持ちはじめていた。アングラ演劇や小劇場運動が拡大する中、身体性と即興性を重視した作品が次々に生まれた。そんな風土の中で、女優・根岸とし江が出演した『ストリッパー物語』は、観る者の記憶に残る異質な輝きを放っていた。題材は裸の女たち、だが舞台上にあるのは剥かれた身体ではなく、沈黙や記憶、欲望といった不可視のものだった。

その作品の一場面で、幻想と現実が揺らぐ瞬間がある。曲名は「夢の中で踊ってあげる」。この音楽が流れるとき、根岸は「助けられた」と語る。作曲は大津彰。彼の旋律は装飾ではない。それは役者を深層へ沈める呼吸であり、台詞にならない震えを導く媒体であった。舞台で演じることが、役に"入る"ことではなく、"還る"ことになる瞬間。そこに音楽は確かに存在していた。

当時、舞台における音楽は変貌を遂げていた。背景ではなく、感情の触媒となり、役者と拮抗しながら場を支配する。大津の音はまさにその先端にあった。観客の耳に届くより前に、役者の皮膚に届く音だった。ストリッパーという題材が、単なる裸の展示ではなく、生と性の物語として立ち上がったのは、音楽がそれを抱きしめていたからだ。

根岸が「この人の音楽は好きだった」と静かに語るその背後には、舞台の闇と光、沈黙と再生が揺れている。『ストリッパー物語』という場で、音と身体と沈黙が溶け合い、誰にも見えない踊りがそこにあったのだ。舞台とは、そうした声にならない声が、ふと風のように通り抜ける、儚くも確かな場所だった。