Friday, May 23, 2025

沈黙が救った夜――1983年9月・核の影の下で

沈黙が救った夜――1983年9月・核の影の下で
1983年9月26日、ソ連の軍人スタニスラフ・ペトロフ少佐は、早期警戒システム「オコー」の監視任務中にアメリカからの核ミサイル発射警報を受けた。コンピュータはまず1発、続いて4発、計5発のICBMを検知し、冷戦下の常識に従えば即座に報復の判断が下される局面だった。しかしペトロフはこれを誤報と見抜いた。全面攻撃にしては発射数が少なく、地上レーダーにも反応がない。人工衛星による誤検知、つまり太陽光の反射をミサイルと誤認したシステムの不具合と判断し、上層部への通報を控えた。この冷静な決断が世界を核戦争の瀬戸際から救ったといわれる。後年、国際社会はこの無名の軍人に「世界を救った男」という称号を与えた。人間の理性が機械よりも上に立った夜だった。

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