地球の秘密が世界へ ― 1995年8月15日
1990年代初頭、日本では環境問題への意識が急速に高まりつつあった。バブル経済崩壊後、持続可能な社会の在り方が見直され、企業も市民も「エコ」や「リサイクル」への取り組みを模索し始めていた。そんな折、島根県の小学生・平田愛革(あいか)さんが、自ら病床で描いた絵本『地球の秘密』が静かな衝撃をもって受け止められた。
愛革さんは、小学6年生にして末期の病に冒されながらも、2か月かけて環境問題の絵本を完成させた。そこには、酸性雨、海洋汚染、オゾン層破壊といった地球規模の問題が、子どもにも伝わるよう丁寧に描かれていた。発行部数はわずか50部。両親の手による自主出版だったが、その誠実さと訴求力は、口コミで広がりを見せた。
1993年には国連環境計画(UNEP)の「グローバル500賞」を受賞。これは当時、環境保全活動に顕著な功績を残した個人や団体に贈られる国際的な賞で、愛革さんは世界的に評価される存在となった。その後、『地球の秘密』は英語、フランス語、中国語、韓国語、アラビア語に翻訳され、子どもから大人まで多くの人々に地球環境の危機を訴えかけ続けている。
当時、環境教育はまだ制度として整っておらず、「環境庁」がようやく存在感を持ち始めた時期だった。そんな中で、子どもの視点から描かれた『地球の秘密』は、「難しいことは専門家に任せる」のではなく、「誰でも環境問題に向き合うことができる」というメッセージを発信した。
この絵本は、日本の市民社会が環境を"自分ごと"として捉え始めた象徴ともいえる。まさに、小さな命が遺した大きな問いかけであった。
No comments:
Post a Comment