山あいの革命 ― ネパールやぎの会と小林芙美子のまなざし・1995年
1990年代、冷戦後の国際秩序が再編される中、日本では市民によるNGO活動が静かに広がりつつあった。その潮流の中に、ひときわ素朴で強い意志を持った団体があった――「ネパールやぎの会」である。会長・小林芙美子は、現地の困窮と誠実に向き合いながら「物で、仕組みで支援する」ことを信念としていた。
貧しい家庭に無償で現金を渡しても、必ずしも目的通りには使われない。だからこそ、小林はやぎという"生きた資源"を、無利子・無担保で貸し出す制度を考案した。やぎは子どもを産み、乳を与え、栄養と収入をもたらす。援助ではなく、自立の契機を贈るという発想は、当時としては画期的だった。
ネパールの山村で、やぎ一頭が生活を支え、日本の支援者と現地の人々の心を結んでいた。それは物質的な規模では小さくとも、人と人の信頼を育む確かな"革命"だった。大量援助ではなく、持続可能な支援の芽を、確かにそこに根づかせたのだ。
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