Tuesday, May 20, 2025

沈黙の水路にひそむ命――微生物たちの革命(1995年頃)

沈黙の水路にひそむ命――微生物たちの革命(1995年頃)

1995年日本の工場排水をめぐる風景が静かに変わりつつあった。高度成長期の水質汚染と激しい公害訴訟の記憶はやがて厳格な排水規制へとつながり企業は技術の再構築を迫られる。そこで再び注目されたのが化学ではなく微生物の力に託す生物処理技術だった。

好気性バクテリアが酸素を得て水中の有機物を分解する「活性汚泥法」は時代を越えて蘇った。さらに担体に定着した微生物が静かに働く「生物膜法」酸素を使わずにメタンを生む「嫌気性消化法」も脚光を浴びる。これらは単なる浄化装置ではなく水の中に息づく生命との協働だった。

生物処理は薬剤に頼らず自然の営みに寄り添う技術である。省エネ低コストそして何より倫理的な処理という思想を宿していた。ISO14001エコタウン構想――新しい環境規範が生まれつつあった時代に微生物は目立たぬ英雄として水の底で働き続けた。

それは沈黙の水路に潜む静かな革命だった。人が汚した水を命が癒やしていく。技術は生命のかたちを借りて進化しはじめたのだった。

No comments:

Post a Comment