自然を守ることは貧しくなることか――農村再生と環境支援のパラダイム転換(1995年頃)
1995年EUはその結成から数年を経て統合と調和を模索する新たな時代に突入していた。冷戦終結後の再構築加盟国拡大の準備市場の自由化など政治・経済の大きな動きがある一方でその足元では農村の荒廃と伝統的生活文化の喪失という静かな危機が進行していた。
とりわけ西ドイツのバイエルン州ではかつて豊かな森と農村風景に彩られていた地方が高度化・工業化の波の中で空洞化し環境悪化と高齢化を伴って次第に見捨てられた土地となりつつあった。この文脈で登場したのが自然保護と経済支援の両立という新しい環境政策の思想である。
この取り組みの中核には環境を守ることは経済成長の障害ではないという理念がある。かつては自然保護活動に対して経済を停滞させる住民の収入を奪うという反発が強かったがEU域内では1990年代に入ってから農業補助金や環境給付金を通じて環境保全活動を職業として支援する制度が整えられていった。
ドイツ・バイエルン州では農薬や化学肥料を削減した農法や有機農業への転換里山の保全放牧による草地管理といった活動に対し州政府やEUが直接助成金を交付。これにより農業の経済的持続可能性と地域環境の再生が同時に達成されるという持続可能な農村モデルが形成されていった。
この発想は当時の日本における中山間地の荒廃農業の高齢化・採算割れ限界集落化といった問題とも響き合っていた。だが日本では依然として自然保護か経済かという二項対立が根強く環境政策と農村振興政策は分断されたままであった。
つまり欧州型の自然との共生を軸にした生活再設計の思想は日本の政策にとっても農業=補助金頼み地方=消滅圏という認識を転換する重要なヒントとなっていた。
この考え方はのちにグリーンツーリズムや都市と農村の交流促進環境保全型農業支援などの施策へと反映されていくが1995年当時の段階ではむしろ欧州の地域環境と暮らしの再結合に対する先駆的な思想の紹介として日本に届いたものであった。
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