Tuesday, May 20, 2025

「見えないごみ戦争」への挑戦――岐阜県の不法投棄監視パトロール(1997年)

「見えないごみ戦争」への挑戦――岐阜県の不法投棄監視パトロール(1997年)

1990年代日本は高度経済成長の副作用ともいえる「廃棄物問題」に直面していた。経済の成熟と産業の多様化により家庭ごみのみならず産業廃棄物や建設廃材といった"見えにくい廃棄物"が急増。とくに地方の山林や農地では、不法投棄や野焼きといった違法行為が日常化し、農村部の環境と住民生活に深刻な影響を与えつつあった。

岐阜県も例外ではなく、県内の農村部では業者が産廃を無断で持ち込み深夜に山中へ投棄するケースが多数報告された。住民からの通報も増え、行政の不作為が批判される中、県は異例ともいえる対策を打ち出す。それが、防災ヘリコプターとパトカーを活用した定期的な空陸パトロールの導入である。

この施策は毎週1回、上空から山間部を監視し怪しい車両や投棄跡を確認すると同時に、地上ではパトカーが現場を押さえるという立体的な監視体制を実現した。自治体による廃棄物の監視としては、当時の日本ではきわめて先進的であり、不法投棄の「抑止」に重点を置いた「予防型の環境行政」として注目を集めた。

さらにこの取り組みは地域住民との連携を前提としており、農協や町内会とも情報を共有する体制が整えられた。県は単に摘発を目的とするのではなく、「誰もが見ている」という状況をつくり出すことで、違法行為を未然に防ぐことを目指したのである。

1997年当時日本全体では廃棄物処理法の改正やリサイクル法の検討が進んでいたが、地方レベルでの具体的対策はまだ少数派だった。岐阜県のこの事例は、のちの「不法投棄監視指針」や「廃棄物広域監視ネットワーク」などの制度設計に影響を与えたともいわれており、地方発の環境犯罪対策モデルとしての意義を持っている。

この取り組みは経済合理性の裏で見過ごされがちだった「見えない犯罪」を可視化し、行政の責任と地域の力が結びついた好例として、現在の廃棄物行政にも多くの示唆を与えている。

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