森の臨界線に立つ影――オオタカと日本の生態系が見た千年紀の岐路(2000年)
2000年、日本の空を舞う猛禽・オオタカが、静かに警告を発していた。里山の頂点捕食者である彼らの姿が、急速に各地の森から姿を消し始めたのだ。原因は開発。都市周縁部の雑木林がゴルフ場や宅地に変わり、繁殖地は寸断されていた。食物連鎖の最上層に位置するオオタカの減少は、森全体の生態系の崩壊を物語っていた。
環境庁はこの年から三年計画で、保護のための科学的指針作りに乗り出す。全国の生息状況をアンケート調査し、電波発信機で飛翔ルートを追う。開発を全面否定するのではなく、「どのような開発が、どの程度なら許されるのか」を数値的に明らかにしようという試みである。
背景には、1992年の生物多様性条約や京都議定書といった国際的な動きがあった。理念先行だった日本の自然保護政策も、具体的で制度的なフェーズへと移行しつつあった。オオタカはその転換点に立たされた"影"であり、"目"だった。
人間の設計図が、自然の設計図と交錯するその境界線――そこで一羽の猛禽が教えるのは、私たちが進むべき未来のありかである。
No comments:
Post a Comment