森の証言者――新里達也と“声なきもの”へのまなざし（2002年）

森の証言者――新里達也と"声なきもの"へのまなざし（2002年）

2002年、京都議定書の発効を前に、日本は地球温暖化への対応を国家政策として本格化させた。循環型社会形成推進基本法が施行され、「持続可能性」や「生物多様性」といった言葉が政府文書に頻出するようになったとはいえ、その意味が社会全体に根づいていたとは言いがたい。

そんな中、株式会社環境指標生物の代表・新里達也は、声なき自然の危機を社会に伝えることに挑んでいた。彼が焦点を当てたのは、白神山地に代表される森林と、そこに息づく微細な生命たち。昆虫、菌類、コケといった"環境指標生物"を通じて、人知れず変化しつつある自然の劣化を科学的に可視化し、人々に伝えようとした。

「人間の生活が直接脅かされるまで、自然破壊は認識されない」。この冷厳な現実を、彼は自らの調査と現地報告を通じて訴えた。経済成長や地域開発の美名のもとで伐採される森の喪失が、やがて水源の枯渇、災害の頻発、生態系の崩壊へとつながる。その連鎖を断ち切るために、新里は"生物多様性は社会のインフラ"であると強調する。

環境DNAや生態系サービスといった言葉がまだ浸透していなかった時代に、彼は自然の沈黙に耳を傾け、科学と倫理を接合させながら、社会に語りかけ続けた。森は語らぬ。だが、見ればわかる。聴けば応える。その声を聴きとる者こそが、時代の真の証人である。