環境省2003年全国調査が暴いた静かな遺棄――家電リサイクルと不法投棄の交錯する風景(2004年2月)
2004年日本社会は「循環型社会」へと静かに舵を切りつつあった。2001年に施行された家電リサイクル法は テレビ 冷蔵庫 洗濯機 エアコンという「家電4品目」を対象に 排出者が費用を負担し メーカーが回収・再資源化を担う仕組みを導入した。この制度は モノの最期に目を向け 使い捨て文化に終止符を打とうとする 日本初の本格的な拡大生産者責任(EPR)の試みだった。
しかし 制度の理念が根づくには 時間も理解も足りなかった。環境省が2003年に実施した全国調査によれば エアコン9295台 テレビ4万2065台が不法に投棄されていた。それらは人目の届かぬ山林 河川敷 農道の影に静かに積まれ 自然の中で風化し やがて環境そのものを蝕んでいった。
不法投棄の背景には リサイクル費用への抵抗感があった。処分に3000円から5000円もかかるとなれば「捨てるほうが高い」という皮肉が現実になった。さらに 回収ルートの不透明さや煩雑なリサイクル券制度が 一般消費者の制度離れを招いた。こうして 再資源化の理念は 日常の面倒に埋もれていった。
悪質な業者による不適切処理もあった。家電販売店や引越し業者が回収を請け負いながら 正式な処理ルートを経ず 闇へと流す事例が相次いだ。制度の隙間をかいくぐるようにして 冷蔵庫やブラウン管が山中に放棄される現実は 法の理念が現場に届いていない証でもあった。
こうした状況に対して 環境省は監視体制の強化 自治体との連携 回収事業者への監査 そして啓発活動の拡充を急いだ。また 販売時の説明義務や メーカーの回収責任の明確化といった制度補強の議論も始まっていた。
だが この"見えない投棄"の問題は 単なる制度の問題ではなかった。それは「早く 安く 簡単に捨てられる社会」が抱える深い矛盾であり 私たち一人ひとりが負う「手放し方の倫理」そのものだった。役目を終えた製品の先に どんな風景が広がっているのか――それを想像すること。沈黙の中に眠るテレビや冷蔵庫の記憶は 私たちに静かに語りかけていた。
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