住宅地に忍び寄る鉛とクロム――家庭土壌の静かな汚染(2004年2月)
2000年代初頭日本では「土壌汚染対策法」(2003年施行)をはじめ 環境基本法や化学物質管理政策の枠組みが次第に整備されつつあった。
だがそれらの制度が主に対象としていたのは工場跡地や産業用地であり 一般住宅地の庭先や空き地といった「生活の場」は その盲点になっていた。
そんな中で 2004年に公表された家庭の庭や宅地134件における土壌調査の結果は 静かな衝撃をもって受け止められた。
鉛が10% クロムが14% そして銅は40%の地点で基準値を超過する高濃度残留が検出されたのだ。
これらの有害金属の多くは 住宅が建設される前の旧工場跡地や埋立地 造成土に起因していると考えられている。
特に戦後の高度経済成長期からバブル期にかけて 土地開発が急速に進められた都市部では 過去の使用履歴が曖昧なまま宅地転用された場所が数多く存在した。
鉛やクロムは 塗料 防腐剤 排煙 電気めっきなどに広く使用されており 土壌中に長くとどまる性質を持つ。
外見からはわからず 日常生活の中で容易に意識されないこれらの物質は 家庭菜園を通じた食物連鎖や 子どもの土いじりを通じての経口摂取といったルートで 健康リスクを引き起こす可能性がある。
問題の根深さは 検出される場所が「家庭」である点にある。
これはもはや工場の問題ではなく 「暮らしの空間に入り込んだ環境汚染」であり その対応には法制度と自治体の枠組みを超えた 市民意識の改革と日常的な土壌の知識普及が求められていた。
この調査は 見えない場所で進行していた「静かな汚染」の存在を明らかにした。
美しく整えられた庭の土 その奥底に眠る鉛とクロムの記憶。
環境行政が未踏のフロンティアに向き合わなければならない時代の 象徴的な一幕であった。
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