眠れる磁性の記憶──2004年・VHSテープ再資源化という再生の寓話
2004年 記録メディアの覇権は明らかに移行していた。VHSが長年にわたり蓄えてきた家族の記録 映画の記憶 教育番組の知恵は 光の円盤──DVDという新たな形へと押し流されつつあった。家庭の棚から レンタル店の倉庫から 静かに押し出されていった黒いカセットたちは かつての価値を失い 大量の廃棄物となって社会をさまよっていた。しかし その"記憶の器"には まだ語られていない可能性が秘められていた。
ビデオテープの筐体にはポリスチレン 歯車にはポリアセタールという耐久性の高いエンジニアリングプラスチック テープには磁性体を含むポリエステル素材が使われていた。これらの素材は焼却や埋立に回すには惜しく 特にPOMは再生プラスチックとしての価値も高い。さらに磁気テープは電磁波を吸収するという特性が注目され 建材や電磁シールド材としての再活用が期待された。
リサイクルの現場では 小型破砕機による分別や ラベルを温風で剥がす工夫が導入され 分別の効率化が進められた。また レンタルチェーンの各店舗が独自に旧作テープの処理を行っていたことから そうした店舗が素材の供給拠点となり得る構図も描かれた。
バーゼル条約による輸出規制のなか 再資源化された素材は中国や東南アジアへの出荷を前提とし より高度な分別技術と国際基準に準じた輸送が求められた。もはやこれは"ごみ"の処理ではない。素材ごとに新たな価値が見出され ビジネスの種として息を吹き返していく過程そのものが ひとつの環境的寓話であった。
記録の終わりは 再生のはじまり。忘れ去られたテープの奥底で 磁性の記憶が再び語りかける声が聞こえてくる。
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