Thursday, May 15, 2025

消えゆく記憶、蘇る素材──2004年・VHSテープ再資源化の夜明け

消えゆく記憶、蘇る素材──2004年・VHSテープ再資源化の夜明け

2004年当時VHSテープの終焉は記録メディア業界に大きな波紋を広げていた。家庭用DVDレコーダーの普及が加速しレンタル業界でも新作の多くがDVDに切り替わる中VHSテープは一気に不要なものと化していた。全国の家庭やレンタル店の棚から姿を消しつつあった膨大なビデオテープの処分が新たな社会課題となりそれが逆にビジネスチャンスへと転じたのが当時注目を集めた「ビデオテープリサイクル」である。

この特集ではVHSテープの構成素材に着目しそれぞれの再資源化の可能性が技術的に詳しく分析されている。たとえば筐体にはポリスチレンギア部分にはポリアセタールテープにはポリエステルをベースにした磁性体が使われていた。中でもポリアセタールは工業部品にも転用可能なエンジニアリングプラスチックとして再利用価値が高く買取価格も他の汎用プラスチックに比べて数倍と評価されていた。加えて磁気テープには電磁波吸収特性があり建材としての再利用(EMボードなど)も実際に進められていた。

こうした再資源化を実現するためには回収と分別の仕組みが必要だった。レンタルビデオチェーンにおいてはフランチャイズ店舗ごとに旧作の処分を任されていたため一定数のビデオを抱える中小店舗が回収拠点となり得た。また破砕処理を行う際には筐体やテープを分別できる小型破砕機が使用されさらにインデックスラベルの剥離には温風を使うといった手作業の工夫も紹介されていた。

この時期国内では2002年における録画用磁気テープの輸入量が約7万トンに達していた。中国や東南アジアへの輸出を視野に入れる中で素材ごとの分別が国際的な環境条約・バーゼル条約への対応としても必要不可欠となった。したがってリサイクルは単なるごみ処理ではなく国際基準を満たす高度な分別技術と流通の整備が求められる新領域であった。

このビデオテープ再資源化の取り組みは廃棄物処理の枠を超えて素材機能の活用や輸出ビジネスに広がる可能性を秘めていた。とりわけポリアセタールのような高性能素材の再活用や磁気テープの電磁波吸収性という特性を生かした製品開発は再資源化にとどまらず新たな産業素材の発見にもつながりうる。VHSという記録メディアの終焉を時代の廃棄物ではなく"未来の素材供給源"と見立てたこの視点こそ2000年代初頭における環境ビジネスの先駆的な発想であった。

No comments:

Post a Comment