焦土の風が哭いた日――ブラックサタデーの記憶(2009年2月)
2009年2月、オーストラリア・ビクトリア州を襲った山火事は、「ブラックサタデー」として語り継がれる未曽有の災害となった。気温46度、風速100キロ、湿度5%という極限状態の中で火は一気に広がり、173人が死亡、400人近くが負傷した。家屋は2千棟以上が焼失し、45万ヘクタールが黒焦げとなった。被災者は3万人を超え、ある町では、炎が1時間に12キロの速さで駆け抜けたという。
この大火災の遠因には、地球温暖化による干ばつの深刻化と、それによって蓄積された枯れ木や落ち葉の存在があった。加えて、森林管理政策の変化や都市と自然の境界の拡大、そして送電線の倒壊や放火といった人為的要素が重なり、被害は拡大した。1939年の「ブラックフライデー」、1983年の「アッシュウェンズデー」、そして2019〜2020年の「ブラックサマー」など、同国は何度も似た惨劇に見舞われてきたが、ブラックサタデーはその頂点に位置する。
この炎は、自然災害というよりも、文明が積み上げてきた脆弱な構造そのものに引火したようだった。焦土を駆け抜けた風が問いかけたものに、私たちはまだ答えられていない。
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