Monday, May 26, 2025

2025年5月26日・王子製紙――木の魂が燃えるとき:バイオものづくりの黎明

2025年5月26日・王子製紙――木の魂が燃えるとき:バイオものづくりの黎明

王子製紙が新たに完成させたパイロットプラントは、紙の時代からの脱皮を象徴する試みである。木材から得たパルプを用いながらも、目的とするのは紙ではない。微生物の代謝反応を巧みに活用し、エタノールを精製するこの装置は、製紙業の未来を大きく方向転換させる可能性を秘めている。

従来、製紙業は紙という単一用途に資源を費やしてきた。だが、紙の需要が漸減するなかで、王子製紙は林業資源に新たな命を吹き込むべく、「バイオものづくり」という産業モデルを打ち立てた。これは、木質バイオマスを化石資源の代替とし、燃料、化学素材、食品、そして医薬品などへと応用を広げる挑戦である。森に根ざす工場が、いまや化学と生物学の最前線へと接続されようとしているのだ。

この生産工程では、まず木質原料を熱や化学処理で分解し、酵素により糖へと変換する。得られた糖は発酵槽へ送られ、耐熱性や高アルコール濃度への耐性を持つ微生物によって、エタノールなどの有用物質へと変貌を遂げる。まるで見えざる微生物たちが、木の中に眠る太陽の記憶を呼び覚まし、液体のエネルギーへと変えてゆくようだ。

さらに王子製紙は、この技術を単なる燃料生産にとどめず、バイオリファイナリーとしての展開を視野に入れている。バイオプラスチックの原料や医薬品の中間体、希少糖やオリゴ糖といった機能性食品成分への応用も検討されており、これはまさに木が化学の言葉で語り出す産業革命といえる。

日本の林業資源は、長らく低価格な紙パルプとして扱われてきた。しかしこのプロジェクトは、それらを高付加価値の資源へと昇華させる道を切り拓く。木の幹に刻まれた年輪が、今、新たな技術の波のなかで、未来へと枝を伸ばそうとしている。王子製紙のこの一歩は、製紙業が生き残りを超え、変容と進化を遂げるための宣言であり、森と科学が再び手を取り合う希望の風景である。

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