エンツェンスベルガーの「情報産業=意識搾取装置」論の引用
あの言葉がずっと脳裏にこびりついている。ドイツの詩人でありメディア理論家でもあるハンス・マグヌス・エンツェンスベルガーはこう言った――「情報産業とは、現体制を維持するための意識搾取の道具である」。この一節を初めて読んだとき、私は震えた。なぜなら、それはまさに私たちテレビ番組制作者が、日々無意識のうちに手を染めていることに他ならなかったからだ。
70年、日本は安保闘争の爪痕を引きずりながらも、万博とカラーテレビの普及に湧き、国家は"明るい未来"のイメージで国民を包囲していた。表現の自由?そんなものは、視聴率とスポンサー契約の前には紙くず同然だった。私たちは、国民が"なんとなく"テレビを眺め、"なんとなく"納得するような番組ばかりを作ることに長けていた。
私が最も衝撃を受けたのは、かつてTBSで萩元晴彦が手がけた番組群だ。彼の演出は、混乱と即興のなかにリアルな人間と社会を映し出し、体制を不快にさせるほどの力を持っていた。『あなたは…』『今、語ろう世界の若者』――あの生放送の現場には、暴力的なまでの"真実"があった。
だが、いまや萩元氏は「テレビマンユニオン」の社長として、クイズ番組や旅番組の量産に満足しているように見える。彼のスローガンだった「頭脳集団のつくる新しいテレビ」は、もはやどこにも見当たらない。
私は思う。エンツェンスベルガーが喝破したように、いまのテレビは人々の思考を促すどころか、意識を消費のうねりに巻き込むための麻酔薬になってしまったのではないか。萩元氏の変節は、その象徴である。
本当に必要なのは、視聴者からの抗議の電話が鳴り響くような、魂を揺さぶる番組だ。それがメディアにできる唯一の"政治"であり、そしてそれができると私は信じてテレビの構成に関わってきた。
エンツェンスベルガーのあの言葉は、テレビ制作者の胸に突き刺さる「懺悔録」である。今、私たちは再び自問しなければならない。「あなたの番組には思想があるか」と。萩元さん、あなたなら、きっと答えられるはずだ。昔のあなたなら。
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