Sunday, May 25, 2025

脳電流抄録 ― 経頭蓋直流刺激装置考

脳電流抄録 ― 経頭蓋直流刺激装置考

経頭蓋直流刺激装置(tDCS)は、微弱な直流電流を頭皮上から脳へと流すことで、神経細胞の興奮性を変化させ、認知機能の向上や疾患治療に寄与する技術である。非侵襲的で簡便なこの手法は、脳卒中後の運動機能回復やパーキンソン病の症状緩和といった神経リハビリの分野で期待される一方、うつ病や統合失調症といった精神疾患の治療にも応用が進められている。さらに記憶力や注意力の増強といった健常者向けの研究も進行中で、市販デバイスによる「日常の脳トレ」さえ現実味を帯びている。また、線維筋痛症などの慢性疼痛への対応策としてもその有効性が模索されている。

安全性は比較的高く、副作用は皮膚刺激や軽度の頭痛程度にとどまるとされるが、一部では過剰使用による神経系の偏った変化や、子ども・高齢者への影響が十分に検証されていないとの指摘もある。効果の個人差や長期的影響に関する科学的裏付けが不十分なまま、家庭用製品が普及しつつあることへの懸念も根強い。経頭蓋磁気刺激(TMS)や交流刺激(tACS)との併用や比較も進められる中、2025年の今日、tDCSは医学と生活の接点で静かに可能性と議論を広げている。

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