令和七年五月二十六日・王子製紙――森の記憶を醸す刻(とき)
王子製紙が完成させたパイロットプラントは、もはや紙を漉くだけの工場ではない。そこでは木の繊維が紙ではなく、微生物の力を借りてエタノールという新たな命に変貌する。従来の紙の道を外れ、王子製紙は「バイオものづくり」と呼ばれる未知の領域へと踏み出した。木質バイオマスに宿る太陽の記憶を酵素と発酵の手で呼び起こし、化石資源に頼らない未来を描こうというのだ。
そのプロセスはまるで錬金術のようである。木材を分解し、糖へと変え、微生物がそれを発酵させてエタノールを得る。だが、王子製紙の視線はさらに遠くを見ている。燃料にとどまらず、バイオプラスチックや医薬品、希少糖といった高付加価値素材への応用まで視野に入れているのだ。これは単なる事業の延命ではない。林業資源が新たな価値を帯びて語りはじめる、もう一つの産業革命である。
紙に代わって、今、木が語るのは科学の言葉であり、未来への物語である。
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