Friday, May 23, 2025

### 四〇〇万ドルで止まった燃料――Colonial Pipeline事件と現代のサイバー戦争(2021年)

### 四〇〇万ドルで止まった燃料――Colonial Pipeline事件と現代のサイバー戦争(2021年)

2021年5月、アメリカ最大級の燃料供給網を担うColonial Pipeline社が、ロシア系ランサムウェア集団DarkSideの攻撃を受け、操業を全面的に停止した。これは米国のサイバーセキュリティ史上でも特筆すべき事件であり、約440万ドル(当時約4億8000円)の身代金が支払われたことで知られる。

この攻撃は、サプライチェーンと日常生活がどれほどデジタルに依存しているかを可視化した事件でもあった。パンデミック下でのIT脆弱性を突いた手口は、単なる企業攻撃にとどまらず、国家の燃料供給そのものを脅かす「新しい戦争」の様相を呈していた。実際、パイプライン停止後、米東海岸ではガソリンスタンドに行列ができ、パニック買いが発生。航空業界や物流にも混乱が広がった。

背景には、ランサムウェアがサービス化(RaaS)し、犯罪者と顧客の役割が分業化された闇市場の拡大がある。このモデルは、攻撃者の技術的ハードルを下げ、標的の多様化を促している。DarkSideは犯行後、攻撃が「社会に過度な混乱をもたらした」として謝罪文を出す異例の展開を見せたが、事態の深刻さは変わらなかった。

この事件を契機に、バイデン政権は国家インフラに対するサイバー攻撃を「戦略的脅威」と位置づけ、連邦主導の対策を強化。FBIはのちに一部の仮想通貨を押収するなど反撃を開始し、サイバー空間における政府と犯罪者の攻防が表面化した。
「440万ドルの支払い」は単なる身代金ではなく、サイバー戦争の最前線で払われた時代の代償だったのである。

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