清純という幻想の体現者――栗原小巻という時代の偶像(1960年代後半〜1970年代)
高度経済成長期のただ中、1960年代後半から1970年代初頭にかけて、栗原小巻は「清純」という価値観の象徴として時代に現れた。モノに満ち、価値観が揺れ動く日本社会において、彼女の佇まいは静謐で清らかだった。映画『忍ぶ川』では抑制された愛を、『白い巨塔』では献身的な女性像を繊細に演じ、知的かつ道徳的な女性というイメージを確立する。また、日ソ合作映画『モスクワわが愛』などで国際的にも活躍し、冷戦下の文化交流の象徴ともなった。舞台でもその演技力は際立ち、文学座仕込みの丁寧な所作や台詞術で観客を魅了した。都市化と情報化が進むなかで、彼女のような「変わらぬもの」「和の美しさ」に憧れた人々は多かった。栗原は、スクリーン上の幻想としてだけでなく、日本人の心の奥にある「古き良き�
��想像」を体現する存在だったのである。
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