光の祝祭と環境の影 ― 表参道イルミネーションのゆらめき 1998〜1999年
1990年代末、日本ではクリスマスや年末のイルミネーションが都市の冬の風物詩として定着し、なかでも東京・表参道は華やかな光の並木道で全国的に注目を集めていた。経済がバブル崩壊後の停滞期にあった中で、街を明るくするこうしたイベントは都市の再生や消費の喚起を狙うものでもあった。しかし同時に、環境意識の高まりの中で派手な電飾の裏に潜むエネルギー消費が次第に問題視されていく。
環境団体「酸性雨調査研究会」は1998年末の表参道イルミネーションを調査した。0.54ワットの電球が約39万個、のべ72時間点灯され、消費電力は一般家庭約53世帯の1か月分に相当し、二酸化炭素排出量は2.2トンに達すると試算した。研究会は「華やかさの陰で地球環境に負担を与えてよいのか」と問いかけ、より環境にやさしい形に改めるべきだと主張した。この言葉は単なる批判ではなく、社会に向けた新しい祭りやイベントのあり方の提案でもあった。
当時は京都議定書が採択された直後で、温暖化対策と省エネルギーへの関心が国内外で急速に高まっていた。こうした国際的背景のもとで、この調査は消費文化と環境負荷のバランスを考える象徴的な問題提起として受け止められた。技術の面から見ても、白熱電球を大量に使用する方式はすでに限界が見え始めていた。もしもLEDを用いれば消費電力は約八割削減でき、二酸化炭素排出量も大幅に抑えられる計算になる。さらにタイマーや段階点灯の導入、深夜帯の減光、通行量の少ない区画での点灯制御といった工夫によって、無駄を抑えながら都市の光景を維持することは十分可能だった。
また、配電効率の改善や力率の安定化、反射材を用いた見え方の工夫なども効果的であり、照明の質を落とさずに環境負荷を軽減する技術的選択肢はすでに存在していた。さらに再生可能エネルギーの利用やグリーン電力証書によるオフセットなど、制度面での支援も視野に入りつつあった。こうした試みは、単に一時的な電力消費を抑えるだけでなく、長期的な視点を導入するライフサイクル評価の概念とも結びついていた。製品や設備の寿命、更新に伴う効率改善、社会全体のエネルギー構成の変化を踏まえた評価が必要であると認識され始めていたのである。
この一件は、都市のシンボルであるイルミネーションが華やかさと環境負荷という二つの相反する性格を抱えていることを浮き彫りにした。そして20世紀末の日本社会において、生活文化の豊かさと環境保全をいかに調和させるかという課題を象徴的に示した出来事でもあった。以後、LEDの普及や制御技術の高度化、再生可能エネルギーの導入などによって、都市の光はより持続可能な形へと移り変わっていく。表参道の光の祝祭は、華やぎの影に環境の問いを映し出した、時代を映す鏡であったといえる。
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