ビットコイン長者エリック・ボーヒーズの夜の会話――2014年前後のアメリカ金融情勢とデジタル革命の只中で
2014年前後、アメリカではリーマンショック(2008年)以降の金融システムに対する不信感が根強く残っていた。ウォール街への抗議運動「オキュパイ・ウォール・ストリート」(2011年)に象徴されるように、市民の間では中央集権的な金融構造への疑義が高まっていた。同時に、エドワード・スノーデンによるNSAの監視暴露(2013年)も、個人のプライバシーと自由に対する危機感を醸成していた。
そんな時代背景の中で登場したのが、国家による中央管理を必要とせず、分散型ネットワーク上で動作する暗号通貨「ビットコイン」である。その魅力は単なる技術革新にとどまらず、貨幣観や権力構造そのものに揺さぶりをかける思想的ラディカリズムにあった。
エリック・ボーヒーズはその熱狂の中心にいた人物である。かつて学生ローンに追われ、雑用で生計を立てていた彼が、サトシダイスというビットコイン賭博サイトをたった225ドルで取得し、1年で100万ドル以上に売却した。ビットコインの初期から数ドルで大量に保有していた彼の資産は、2013〜2014年には急騰し、数百万ドルに達していた。まさに「草の根からの成り上がり」の象徴である。
タホ湖畔の豪邸で催されたこのパーティーは、単なる富裕層の社交の場ではなかった。そこには、旧来のウォール街的金融秩序に挑戦しようとする新興のデジタル革命家たちが集っていた。ホストのダン・モアヘッドもそのひとりで、彼はゴールドマン・サックス出身ながら、伝統的金融を離れ、ビットコインに数千万ドルを投資していた。
エリックはそこで「今夜の損失は長期戦略の一環だ」と笑い、ポーカーチップを豪快にテーブルに投げ出す。この一言には、従来の資本主義的成功観では捉えきれない、自己の思想的信念と未来への確信が込められている。彼にとってビットコインとは、単なる投資手段ではなく、「国家に依存しない自由な経済圏の構築」という理想の具現だった。
興味深いのは、彼が「自分が金持ちになりつつ世界を変えられる」と口にする点である。それは功利主義と理想主義の融合であり、2010年代以降のテックエリートたちに通底する思想とも言える。パナマへの移住、SECの調査、恋人との別れといった苦難を経ながらも、彼の信念は揺るがず、むしろユーモアで武装されていた。
この会話は、当時の世界的潮流――中央集権から分散型へ、国家から個人へ、現実通貨からコード化された信頼へ――という流れを象徴する一場面として、極めて象徴的である。
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