Wednesday, October 1, 2025

牛を放牧して雑草を食べさせる農地再生の語り―2004年5月

牛を放牧して雑草を食べさせる農地再生の語り―2004年5月
あの頃、私の目の前に広がっていたのは、人の手が入らなくなった農地だった。草は腰の高さまで伸び、夏になれば蚊や虫が舞い、見るからに荒れていく土地をどうすればいいのか、誰もが頭を抱えていた。人手は減り、高齢の農家が増え、草刈り機を振るうにも限界がある。そんなときに「牛を放してみてはどうか」と耳にしたのだ。

実際に神奈川や徳島で試みられた例を知り、私は驚いた。牛は1日50から70キロの草を食べ、20日もすれば地面が見えてくるという。数字で示されると、まるで牛たちが目に見えるスピードで土地を取り戻していく姿が浮かぶ。仲間と「これは使える」と話したときの、半分笑いながらも納得してしまう感覚は今も忘れられない。

牛を放牧すれば、草を片づけてくれるだけではない。落とした糞はやがて肥やしとなり、土地に栄養を戻してくれる。除草剤に頼らず、機械に頼らず、自然の営みをそのまま利用するやり方に、私は深い魅力を感じた。何より、人手が減る中で「牛に任せればいい」という考えは、冗談めいていながら現実的な解決策に思えた。

今にして思えば、あの語り口は単なるアイデア紹介ではなく、未来を共に想像する呼びかけだったのだろう。荒れていく土地の前で途方に暮れていた私たちに、牛という存在が「希望」を与えてくれたのだ。自然と共に生きる農の形を思い描いたその時の実感は、2004年の農業再生をめぐる議論の中で確かに息づいていた。

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