田中絹代の約50年に及ぶ映画人生は、日本映画を代表する監督たちとの出会いによって形づくられました。1924年に松竹へ入り、清水宏の作品で早くから主演を務め、その後、小津安二郎、五所平之助、溝口健二、成瀬巳喜男、木下惠介、市川崑らの作品に出演しました。松竹の資料では、生涯の出演作は約260本に及ぶとされています。 小津安二郎の映画では、日常生活の細かな感情を静かな演技で表現し、溝口健二の作品では、過酷な運命を背負う女性の強さと悲しみを演じました。とくに「西鶴一代女」「雨月物語」「山椒大夫」などへの出演は、田中の国際的な評価にもつながりました。溝口は厳しい演出で知られ、国立映画アーカイブも田中を「溝口組」を支えた重要な俳優の一人として位置づけています。 田中絹代を追うことは、一人のスターの伝記を読むだけではありません。監督によって変化する演技、撮影所の制作文化、女性に求められた役割、そして戦前から戦後へ移り変わる日本社会までが、その表情の中に刻まれています。さらに田中自身も1950年代には映画監督となり、演じる側から映画を作る側へ踏み出しました。国立映画アーカイブでは、監督作「乳房よ永遠なれ」なども現在あらためて紹介されています。
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