Wednesday, December 10, 2025

本多秋五――戦後日本文学の地層を掘り当てた批評家 1945-1970年代

本多秋五――戦後日本文学の地層を掘り当てた批評家 1945-1970年代
本多秋五(1908-2001)は戦後日本文学研究の方法を大きく転換させ近代文学史を体系化した中心的批評家である。敗戦後の日本は価値観が崩れ文学も戦争責任や個の倫理といった根源的問題に直面していた。本多は明治から昭和に至る文学を歴史的連続の中で捉え作家の思想、背景、生涯、時代状況を結びつけて読む方法を確立し印象批評からの脱却を実現した。

明治文学では欧化思想と伝統の緊張、近代自我の形成という枠組みから作家を位置づけ文学史に構造的視野を導入した。また三島由紀夫に対しては戦後社会の虚無を背後に読み取り大江健三郎に対しては戦後民主主義の矛盾の中で形成された青年知識人像に注目するなど作品と時代精神を結ぶ分析を行った。

高度経済成長期には人間の疎外や空虚さが拡大する中で文学の役割を人間の全体性の回復に求め政治闘争が激化する時代にも文学は歴史的経験と向き合うべきだと主張した。本多の批評精神は作品を歴史の中で多層的に読み解く視点を徹底し今日の文学研究にも強い影響を与え続けている。

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