新規フッ素系溶剤 失われゆくオゾンと産業の岐路(一九九〇年代)
一九九〇年代は世界がフロン類によるオゾン層破壊問題に向き合い始めた転換期であった。従来のCFCやHCFCは精密機器洗浄に欠かせない存在だったが、モントリオール議定書により段階的全廃が進み、日本の電子産業では代替溶剤の確保が急務となった。この状況で日本ゼオンが開発した新規フッ素系溶剤は、オゾン層破壊係数がゼロで大気中での寿命も短く、温室効果への寄与も小さいという環境特性を備えていた。
従来フロンに近い洗浄力や不燃性を維持しつつ環境負荷を大幅に減らした点は産業界の要請に合致し、金属や樹脂部品を傷めにくい特性から電子部品や光学洗浄工程でも利用可能であった。九〇年代の技術資料には、従来フロンからの円滑な移行を目指す設計思想が読み取れる。
国際的にはHFCやHFEを含む多様な代替物質が検討され、オゾン層破壊係数に加えて地球温暖化係数や大気寿命を含む包括的評価が重視されるようになった。日本ゼオンの技術はこの流れの中心に位置し、環境規制を技術競争力への転換点と捉えた当時の日本企業の姿勢を象徴していた。
こうした新規溶剤は、環境と産業の両立を模索する九〇年代化学産業の意識転換を示す成果であり、持続可能な技術への道を開くものとなった。
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