思想の漂流者―吉本隆明と日本の知の転換期（1970年代）

思想の漂流者―吉本隆明と日本の知の転換期（1970年代）

吉本隆明（1924-2012）は戦後日本を代表する思想家であり、文学・政治・社会に独自の視点を示した。1970年代、日本は高度経済成長の終焉と学生運動の衰退を迎え、社会の変化に適応する新たな思想が求められた。吉本は「共同幻想論」により、国家や社会を「個人の集合的幻想」として捉え、個人の「自立」を重視した。この立場は既成の左翼やリベラル知識人と対立しながらも、多くの若者に影響を与えた。

1970年代後半になると、彼の関心は政治理論から文化批評へと移り、大衆文化や消費社会の精神的変容を分析するようになる。宮崎駿や村上春樹の作品を通じて、戦後日本の感性の変化を読み解いた。吉本の思想は、時代の転換点における「大衆の意識」と向き合うものであり、1970年代の終焉とともに、日本の思想・文化を深く考察する鍵となっていった。