Monday, March 24, 2025

影を落とす勲章 ― 2000年代イラクの空と兵士たちの無言の投稿

影を落とす勲章 ― 2000年代イラクの空と兵士たちの無言の投稿

イラク戦争のさなか、砂塵舞う大地の上空を飛ぶアメリカ軍のアパッチ攻撃ヘリ(AH-64)が、敵勢力による執拗な追撃を受けた。その背後には、意外な存在が静かに絡んでいた。戦場とは無縁に思える一つのスマートフォンアプリ――Foursquareだ。

2009年頃から、Foursquareは若い兵士たちの間でも静かに広がっていた。このアプリでは、自分の現在地を「チェックイン」することで、地図上に記録が残り、さらに仮想の「バッジ」を獲得する仕組みがあった。ある兵士は「バグダッド国際空港近くの前線基地に到着」とチェックインし、喜々としてそのバッジを獲得した。だがその投稿は、見知らぬ誰かにも見えていた。米兵がどこにいて、どこから出撃し、どこに戻るのか――その情報が、まるで観測気球のように、敵の眼差しのもとに浮かび上がっていた。

2010年の『ニューヨーク・タイムズ』の記事「Web Photos That Reveal Secrets」では、こうした位置情報付き投稿がもたらす危険について警鐘が鳴らされている。記事では、兵士が撮影した写真やFoursquareへのチェックイン情報が、GPSタグや位置メタデータを通じて、無意識のうちに部隊の所在地や行動ルートを暴露している実例が挙げられている。とりわけ戦場では、このような情報は命取りとなり得る。

実際、アパッチ部隊が出撃した直後に待ち伏せに遭遇するケースが報告され、その背後にSNS上の投稿が関係している疑いが持たれた。基地や部隊の配置が敵勢力に把握された可能性が浮上し、軍上層部はSNSと位置情報アプリの使用を再評価せざるを得なかった。

この出来事以降、アメリカ軍では位置情報を含む投稿が原則として禁止され、FoursquareやFacebook、Twitterなどのアプリ使用にも厳しい制限が設けられた。任務の合間に交わされる軽い投稿が、仲間の命を脅かすという現実。バッジを求めて投稿された一瞬の「日常」が、戦場という非日常の中で取り返しのつかない影を落としたのである。

静かに手元で光るスマートフォン。その一画面が、鋼鉄の猛禽アパッチの空路を敵に教えてしまったという皮肉は、情報時代の戦争がいかに繊細で予測不能であるかを物語っている。兵士たちは今や、銃火の前にまず「投稿」を疑う時代を生きている。

※本内容は『ニューヨーク・タイムズ』2010年8月1日付の記事に基づいて再構成されました。

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