Monday, March 24, 2025

森の声なき悲鳴 ― 愛知県豊根村にみる森林放置と生態系崩壊の連鎖(2001年〜2006年)

森の声なき悲鳴 ― 愛知県豊根村にみる森林放置と生態系崩壊の連鎖(2001年〜2006年)

愛知県の最北端に位置する山間の村、豊根村。村域の93%を占める森林のうち、およそ8割は戦後の拡大造林政策で植えられたスギやヒノキの人工林です。かつては林業の村として栄えたこの地も、外材の輸入増加と国産材の価格低迷により林業が衰退し、今では多くの山が人の手を離れ、放置されたままとなっています。

間伐されずに密生した森林は、陽の光が地表に届かず、下草が育たなくなります。地面はむき出しとなり、雨水の浸透力が失われていきます。その結果、保水力は低下し、土砂流出や地滑りといった災害のリスクが高まります。そこに棲むはずの動植物の命も、次第にその場を追われ、生態系は静かに崩れ去ってゆきます。

この状況に歯止めをかけるべく、豊根村では2001年に「とよね木サイクル構想」を策定。森林資源の循環利用によって、村の自然と暮らしを取り戻す計画が始まりました。その中心には、間伐材を原料とした木質ペレットの製造と、公共施設などへの活用による地域内循環が据えられています。

さらに、2009年には「豊根村森づくり条例」が制定され、森林の多面的な機能の維持と持続的利用が制度的に支えられるようになりました。これにより、整備された森林は景観と生態系の両方に配慮された"生きた森"として再生されつつあります。

しかしその歩みは、決して平坦ではありません。ペレット需要の不安定さ、高額な搬出コスト、高齢化が進む林業従事者の不足――持続可能な森を守るには、なお多くの課題と覚悟が求められています。

関連情報(要約)

- 「とよね木サイクル構想」では、間伐材活用による資源循環を村内で推進。
- 木質ペレット製造拠点「とよね木サイクルセンター」を設立し、公共施設などで活用。
- 森林整備を支援する「豊根村森づくり条例」を2009年に制定。
- 国の林野庁「森林×SDGsプロジェクト」、東京大学や学術会議による森林政策報告も、類似の問題と対策を提言。
- 豊根村は、山村の荒廃と再生のはざまで揺れる全国の山間地にとって、先行事例の一つとされている。

この森が発する"声なき悲鳴"に、私たちはどこまで耳を傾けられるのだろうか。豊根村の森は、静かに、しかし確かに再び人の手を待っている。

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