「穀物戦線――揺れるアメリカ、躍進するブラジル」 - 2023年5月
アメリカは20世紀後半から中国をはじめとするアジア諸国への主要な穀物輸出国であり、特に大豆とトウモロコシの輸出において世界の市場を牽引してきた。しかし、2020年代に入るとブラジルの穀物生産が急速に拡大し、アメリカの市場シェアが低下。米中貿易摩擦や気候変動の影響が相まって、国際穀物市場の勢力図が大きく変化している。
### ブラジルの台頭
南米の広大な大地に広がる大豆畑。かつてアメリカの背後を追っていたブラジルは、今や穀物市場の主役となりつつある。2000年代からの政府の農業支援策とインフラ整備により、2023年には大豆輸出量が1億5000万トンを超え、アメリカを抜いて世界最大の輸出国となった。さらに、中国との直接取引を強化し、輸送コストの削減を図ることで競争力を高めている。
### アメリカの市場圧迫
かつて「世界の穀倉」と呼ばれたアメリカは、米中貿易摩擦の影響を受け、中国向けの輸出が減少。トウモロコシと大豆の価格は不安定となり、2022年以降、輸出量が減少した。2023年には、アメリカの農家の収益圧迫が顕著となり、補助金の増額が議論されるほどの事態に。中西部の農場主たちは、次世代への農業継承に不安を抱えながら、激変する市場に翻弄されている。
### 気候変動の影響
市場競争の背後で、気候変動が新たな脅威として影を落としている。ブラジルは熱帯地域に位置しながらも、近年の降水量増加や灌漑技術の発展により、より安定した農業生産が可能となった。一方、アメリカでは西部の干ばつや異常気象により、収穫量の変動が激しくなり、かつての安定供給体制に陰りが見え始めている。
### 中国の需要と今後の展望
世界最大の穀物輸入国・中国は、2023年に約1億6000万トンの穀物を輸入。そのうち、ブラジルからの輸入が増加し、アメリカ産の割合が減少。中国政府は食糧安全保障の観点から、供給元の多様化を進めており、ロシアやアルゼンチンとの取引も拡大中だ。かつてアメリカとブラジルの二強であった市場に、第三、第四のプレイヤーが台頭する可能性もある。
ブラジルの成長により、かつての安定した穀物市場は、いまや大きく揺れ動いている。アメリカはこの激動の中で新たな戦略を見出せるのか、それとも市場の覇権は南米へと移行していくのか。穀物戦線の行方は、世界の食糧安全保障にも大きな影響を与えることになるだろう。
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