Wednesday, March 5, 2025

江戸吉原に咲いた華 - 松葉屋の瀬川、その栄光と波乱の生涯

江戸吉原に咲いた華 - 松葉屋の瀬川、その栄光と波乱の生涯

江戸時代、吉原遊廓の名門妓楼「松葉屋」には代々「瀬川」と呼ばれる遊女が存在し、特に五代目瀬川はその美貌と才覚で知られていた。彼女は幼少期に親に捨てられた後、松葉屋に引き取られ、そこで育てられた。美しい容姿と高い教養を持ち、書画や和歌、茶道、三味線などの芸事にも秀でていたことから、やがて「瀬川」の名を継ぎ、吉原の花魁として名を馳せるようになった。

1775年(安永4年)、彼女は盲目の高利貸しで莫大な財を成した鳥山検校によって、1400両(現在の価値で約1億4000万円)という巨額で身請けされる。この驚くべき額は当時の吉原においても群を抜いており、瀬川の名声を一層高めるものとなった。しかし、幸福は長くは続かなかった。1778年(安永7年)、鳥山検校は幕府から財産を没収され、江戸を追放されることになる。突然の庇護者の失脚により、瀬川の運命も大きく揺れ動くこととなった。

その後の彼女の行方には諸説がある。一説には、武士の妻となったとも、大工と結婚したとも言われるが、確かな記録は残されていない。遊女として華やかに生きた後の人生が歴史の闇に埋もれていることは、彼女の謎めいた魅力を一層引き立てている。

瀬川の波乱に満ちた生涯は、戯作者・田螺金魚による洒落本『契情買虎之巻』の題材となった。この書物は遊郭の作法や遊女とのやり取りを詳細に描き、江戸の庶民の間で広く読まれた。さらに、現代においても彼女の名は注目を集めている。2025年のNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』では、「花の井」という名で登場し、蔦屋重三郎の幼馴染として描かれることが決まっている。

五代目瀬川は、ただ美しさだけでなく、強さと知性を兼ね備えた女性であった。彼女の物語は、江戸時代の遊郭文化、そして女性が背負った運命を知るうえで重要な存在であり、今なお多くの人々を惹きつけてやまない。

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