Tuesday, March 18, 2025

海軍炊事録──塩と甘さの間で

海軍炊事録──塩と甘さの間で

海軍の炊事は、単なる料理ではなく、厳格な規律と合理性のもとで行われていた。炊飯では、水を沸騰させた後に米麦を投入し、長いお玉で中央に穴を作ることで、熱の対流を均等にする工夫が求められた。釜の外縁部から十センチほど内側の部分が最も美味しいとされ、炊事兵たちは密かにその部分を優先的に取り分けていた。味噌汁は、煮干しを前夜から水に浸して出汁を取り、朝には完全に旨味が抜けた煮干しを取り出す。味噌を入れた後に沸騰させることは厳禁で、「香りを飛ばすな」との厳しい教えが徹底されていた。

また、海軍式のすき焼きは、肉を最初に砂糖と醤油で強く味付けし、途中で追加することを許さない一貫性を重視した調理法が特徴的だった。肉の表面を素早く焼き固め、旨味を閉じ込めることで、味がばらつかないよう工夫された。こうした料理の一つ一つに、海軍の秩序と合理性が反映されていたのである。

中でも印象的なのが「しるこ事件」だ。ある炊事兵が甘みを足すつもりで塩を入れ続け、異様に甘じょっぱいしるこを作ってしまった。しかし、意外にも味は悪くなく、仲間たちは何食わぬ顔で飲み干した。この小さな失敗は、軍の厳格な管理の中にも、ふとした人間味やユーモアが入り込む余地があることを示している。

こうした調理法は、単なる食事作りではなく、軍隊の規律と食糧管理の合理性を反映するものだった。厳格な管理のもとでも、ふとした逸脱が生まれ、それが記憶に残るエピソードとなる。海軍炊事は、規律と創意、そして時には予期せぬ笑いをも内包していたのだ。

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