〈魂の音叉に触れる瞬間――小林秀雄と批評という芸術 1902年〜1983年〉
小林秀雄は、日本近代の批評という営みに新たな魂を吹き込んだ文芸の探求者である。分析を超えて思索の運動そのものを言葉にし、読むことを通して考えることの意味を世に問うた。彼の批評は、文体と思想の交差点に立ち、作家の生きた思考に自らの感受をぶつけていく、極めて私的で、同時に普遍的な営みであった。
芸術に対しても、小林は一貫して誠実だった。絵画ではゴッホやセザンヌ、音楽ではモーツァルトを取り上げ、技巧ではなく形式に宿る魂を見出す。とりわけモーツァルト論は、軽やかさのなかに死の気配を感じとり、芸術が人生を照らす倫理の光であることを語る。
『本居宣長』においては、思考とは何か、日本語で考えるとはどういうことかを追究し、批評を哲学の地平へと引き上げた。小林秀雄の言葉は、いまなお私たちの内なる音叉に、深く静かに響いている。
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