森を資本に変える時代――和歌山県「企業の森」と炭素認証制度(2007年)
2007年、日本は京都議定書に基づく温室効果ガス削減の第一約束期間(2008年〜2012年)を目前に控え、各自治体や企業がCO₂削減に向けた実効的な対策を模索していた。中でも注目を集めたのが、和歌山県が打ち出した「企業の森」構想である。これは、森林の整備や植林活動を通じてCO₂の吸収量を可視化・認証する全国初の制度であり、環境問題を経済活動の中に取り込む先進的な試みだった。
この制度では、荒廃した山林の整備を企業がボランティアまたは協賛金によって支援し、そこで得られるCO₂の吸収量を100年単位で認証するというもの。和歌山県は、森林の公益的機能――とりわけ炭素の吸収・貯蔵能力――に着目し、これを"環境サービス"として定量化することで、企業活動と環境保全の橋渡しを可能にした。
制度開始時には、地元企業を中心に27の法人が参加。対象面積はすでに136ヘクタールを超え、実質的な森林再生とCO₂吸収の両立が進められた。ここでは、森林を"伐るもの"から"育てるもの"、さらに"測定し売買可能な資産"へと変える思想的転換が起きていた。
時代背景として重要なのは、2006年に小泉政権が掲げた「チーム・マイナス6%」キャンペーンや、CO₂排出削減のための各種排出量取引スキーム(J-クレジット制度の前段階)が全国的に議論され始めた時期だったこと。企業の社会的責任(CSR)や環境貢献活動が経営戦略として重視されはじめ、金融機関や流通業、製造業など多様な業種が環境価値をブランドとして活用する動きが広がっていた。
こうした中、和歌山県の取り組みは、地元の森林資源を「炭素の貯蔵庫=カーボン・バンク」として再定義し、持続可能な地域経済の循環に結びつける象徴的な試みであった。環境価値を"測り"、"認証し"、"評価"するという仕組みは、のちのカーボンクレジット制度にも通じるものであり、森林と企業と地域社会が三位一体で温暖化対策に関与する先進モデルとして注目された。
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