水面に映る共生の風景 ― 長野県安曇野市における水田再生と生態系の復元（2003年）

水面に映る共生の風景 ― 長野県安曇野市における水田再生と生態系の復元（2003年）

2003年、長野県安曇野市では、農業構造の変化や高齢化に伴い増加した休耕田の利活用を模索する中で、生態系の再生を目的とした水田ビオトープの整備が始まった。バブル崩壊以降、都市と農村の格差が顕在化し、放棄された農地は荒廃の一途をたどっていた。その一方で、人間と自然の共生を模索する動きが各地で高まり、安曇野はその象徴的な地域となった。

取り組みでは、地元住民やNPOが協働し、放棄された水田を掘り下げ、水を引き入れて湿地環境を復元。そこにヨシやガマを植え、トンボやカエル、野鳥が戻る環境を作った。特に準絶滅危惧種のトンボの確認は、地域に希望を与える成果となった。こうした生態系再生の動きは、単なる環境保全にとどまらず、住民参加による地域の再生でもあった。草刈りや調査活動に地域住民が関わり、「守るべき自然」が生活に組み込まれた。

さらに、ビオトープは都市部の学校からの環境学習の場としても利用され、都市と農村を結ぶ教育交流の橋渡しとなった。都市の子どもたちは泥に触れ、命の循環を肌で感じる機会を得、地域にとってはその存在が誇りとなっていった。安曇野のこの試みは、耕作放棄地という社会課題を逆手に取り、生態系と地域の活力を取り戻した成功事例として、現在も多くの自治体で模倣されている。