Thursday, July 31, 2025

290 チェビシェフの不等式と大数の法則

290 チェビシェフの不等式と大数の法則

チェビシェフの不等式と大数の法則は、どちらも確率論の重要な定理であり、特に「不確実なものがどう分布するか」「多数の試行を行ったときにどんな傾向が見えるか」を理解するための基本になります。

まず、チェビシェフの不等式は、「確率変数が平均からどれだけ離れた値を取る可能性があるか」を評価するためのものです。たとえば、あるデータの平均が50だとして、「70や30といった、かなり離れた値を取ることはどのくらいの頻度で起きるのか」を知りたいときに、この不等式が役立ちます。特に重要なのは、どんな形の分布(正規分布や一様分布など)であっても、ある程度のばらつきを超えた値が出る確率には上限がある、ということを保証してくれる点です。これは、データがどんなに偏っていようと、平均から遠い値は滅多に出現しないということを数学的に裏付けてくれるものです。

一方、大数の法則は、「試行の回数を増やせば増やすほど、平均値が真の値に近づいていく」という法則です。たとえばサイコロを1回振っただけでは出た目はランダムですが、100回、1000回、1万回と振り続けることで、平均はだんだんと3.5(サイコロの理論的な平均)に近づいていきます。これは、どんなに一つひとつの試行が不確実であっても、大量に集めて平均をとれば、安定した結果が得られるという、非常に心強い法則です。統計学や実験科学が成り立つのも、この法則のおかげです。

実は、この大数の法則を証明する際に使われる道具の一つがチェビシェフの不等式です。なぜなら、たくさんの試行の平均が「ある範囲」からどれだけ外れるかという確率を、チェビシェフの不等式で評価できるからです。そこから、「その確率がだんだん小さくなる(つまり、外れにくくなる)」ことが示され、大数の法則が導かれるのです。つまり、チェビシェフの不等式は個別のデータのばらつきを評価するための道具であり、大数の法則は集団の振る舞いを示す法則でありながら、両者は密接に関係しています。

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