Wednesday, July 30, 2025

清純という夢の肖像――星由里子と昭和のまなざし(1960年代〜1970年代)

清純という夢の肖像――星由里子と昭和のまなざし(1960年代〜1970年代)

星由里子(1943–2018)は、昭和30年代から40年代にかけての日本映画を象徴する、清純派女優の代表格であった。彼女が銀幕に現れたのは、映画産業がまだテレビに押される前、大手映画会社がスターを育成し、観客の憧れを一身に受けていた時代である。

1950年代末、日本は高度経済成長のただ中にあった。都市化が進み、中流家庭が増え始め、家庭電化とともに人々の生活も文化も変わりつつあった。そんな中、観客が映画に求めたのは、戦後の荒廃とは対極にある"清らかさ"や"幸福"の象徴だった。星由里子は、その理想にぴたりと重なる存在だった。

1960年、東宝の第6期ニューフェイスとして映画界に入り、1961年『大学の若大将』で加山雄三の恋人役を演じたことで一躍注目を浴びた。以来、彼女は若大将シリーズを通じて、「良家の子女」「清楚な恋人」「時代が求める理想像」として定着していく。スクリーン上での彼女は、笑顔と知性をあわせ持つ存在として、平和な家庭の中に咲く花のように映っていた。

若大将シリーズは、戦後の豊かさと希望を映し出す象徴的な作品であり、星はそこにおいて「戦後を肯定的に生きる女性」の姿を体現した。彼女の存在は、国全体が未来を信じ、上昇志向に満ちていた時代において、観客の胸に「こうでありたい」「こうあってほしい」と願われる存在となった。

だが1960年代後半、テレビが急速に普及し、映画産業の衰退が始まる。観客は映画館からお茶の間へと移り、映画スターもまた、テレビドラマの世界へと歩を進めていった。星由里子もまた、ホームドラマやサスペンスドラマの女優として活躍の場を広げていく。

変化するメディア環境の中にあっても、星の持つ"品格"は失われることがなかった。清楚で知的、そしてどこか懐かしい佇まいは、テレビの中でも変わらずに光を放っていた。

彼女の軌跡は、日本が「豊かさ」と「安定」を夢見た時代そのものと重なる。戦争の影から抜け出し、未来への希望を抱いていた日本社会において、星由里子は夢の体現者であり、時代のまなざしが見つめ続けた"幻のような清純"だったのである。

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