塚本邦雄(歌人)――前衛短歌と戦後日本の精神の反照(昭和46年12月)
塚本邦雄(1920年~2005年)は、戦後短歌に革新をもたらした異端の歌人である。伝統的な五七五七七の形式にこだわりながら、内容は徹底的に前衛的で、耽美・死・性・毒・宗教・歴史などを融合させた独自の世界観を展開した。昭和46年は、高度経済成長の只中で、テレビと消費文化が急速に社会を覆い尽くしていた時代だった。学生運動の挫折や政治の停滞、価値観の混乱が日本社会を覆う中で、塚本の短歌はそうした「薄っぺらな現代」に対する美的反抗でもあった。
この年、塚本は『歌人』などの作品で、精緻で冷ややかな文語と古語、漢語を駆使しながら、退廃と抒情を融合させた歌境を構築していた。同世代の寺山修司が演劇や映像に展開していったのに対し、塚本は一貫して短歌という定型にこだわり続けた。「美しき死者の乳房を思ひつつわれは冷えたるコーヒーを飲む」といった一首には、文明化された都市の孤独と死の気配、冷たい現実への鋭利な皮膚感覚がにじむ。昭和46年は短歌が「古いもの」とされ始めた時代でもあったが、彼はそのなかで逆に短歌という形式に新たな生命を与え、「古典の中の最も現代的な声」を追求し続けたのだった。塚本の存在は、1970年代の日本文化において静かなる烈風であった。
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