Thursday, July 31, 2025

もうひとつの負の遺産――石原産業事件と四日市の沈黙(1995年4月)

もうひとつの負の遺産――石原産業事件と四日市の沈黙(1995年4月)

三重県四日市市で発生した石原産業による「無届け廃棄物埋設事件」は、戦後日本の工業化の影に潜む「負の遺産」を象徴する出来事だった。1995年当時、同社は三重県の企業として地域に根ざしながら、長年にわたり有害廃棄物を海岸近くに違法に埋設していたことが発覚。この廃棄物には鉛や六価クロムなどの有害物質が含まれており、地下水や周辺土壌の汚染が懸念された。事件発覚に至るまでには、元社員による内部告発と、それを受けた市民団体・報道機関の継続的な追及があった。

当時の四日市は、かつて四日市ぜんそくとして知られた大気汚染の被害地でもあり、公害対策が一定の成果を上げたと思われていた。しかしこの事件は、「見えない汚染」が依然として存在し、それが企業と行政の癒着や地域の沈黙によって覆い隠されてきたことを示した。住民説明会では「過去の教訓は生かされていない」との怒りの声があがり、再発防止策と企業責任の追及を求める運動が拡大した。石原産業はその後、土壌除去と浄化費用を負担することになるが、信頼回復には至らなかった。

この事件は、環境保全における「記憶」と「監視」の重要性、そして地域住民の声が持つ力を社会に問いかけた。沈黙の重さと、記録されざる被害の掘り起こしが、環境政策の根底を揺さぶったのである。

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