英国の温室効果ガス排出権取引の現状 - 2020年代
2020年代における英国の温室効果ガス排出権取引は、EU離脱後の独自制度「UK Emissions Trading Scheme(UK ETS)」として運用されています。これは、2021年に開始され、EU ETSに代わる制度として設計されました。この新制度は、英国全土(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)を対象に、より高い削減目標を設定しています。
現在の目標と仕組み
UK ETSでは、2030年までに1990年比で温室効果ガス排出量を68%削減する目標を掲げています。この目標達成に向け、電力、産業、航空部門の大規模排出者が対象とされ、炭素価格の設定が重要な役割を果たしています。2023年時点で、1トンのCO2排出権の価格は平均で65ポンドに達しており、これはEU ETSの価格(約85ユーロ)に近い水準です。
地域と産業の影響
ロンドン市内を含む都市部では、電力業界を中心に再生可能エネルギーの導入が加速しており、ウィンダーフォレスト(Windar Forest)に設置された大規模な風力発電所がその一例です。一方で、北イングランドの製造業が集積する地域では、排出削減技術への投資が課題となっています。例えば、ニューカッスルに拠点を置く重工業企業であるBAEシステムズは、2022年に炭素回収技術を導入し、年間排出量を10%削減しました。
物質別の削減状況
英国では、石炭利用がほぼゼロに近づき、天然ガスの利用が主流となっています。また、再生可能エネルギーの割合は2023年に全電力供給の40%を超えました。一方、産業部門では依然としてCO2の排出量が高く、スチールやセメント産業での削減努力が求められています。
課題と展望
UK ETSの課題として、炭素価格の変動が企業の長期的な投資計画に影響を与える点が挙げられます。特にスコットランドでは、漁業や食品加工業の排出権コスト増加が地域経済に与える影響が懸念されています。これに対し、政府は炭素価格安定化メカニズムを導入し、価格の過剰な変動を抑制する方針です。
さらに、英国政府は「ネットゼロ・イノベーションプログラム」を通じて、新興企業への支援を強化しています。例えば、ロンドンに拠点を置くスタートアップ企業「ClimeWorks UK」は、直接空気回収(DAC)技術を開発し、CO2回収効率を20%向上させることに成功しました。
結論
2020年代の英国の排出権取引は、EU ETSと比較して独自性を持ちつつも、引き続き先進的な削減目標を掲げています。地理的、産業的な多様性を考慮しつつ、炭素価格を活用した排出削減の取り組みは、他国にも参考になるモデルとして注目されています。
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