471 HMM(隠れマルコフモデル)
隠れマルコフモデル(HMM)は、私たちが直接見ることのできない「隠れた状態」が時間とともに変化しながら、それに応じて観測可能なデータが現れるという仕組みを前提にした確率的なモデルです。たとえば、天気の状態は直接見えないかもしれませんが、人が傘をさしているかどうかは観測できます。このような場面で、隠れた状態(天気)を観測された情報(傘の有無)から推定したいときにHMMが使われます。
このモデルでは、「観測変数」と「潜在変数」が重要な役割を果たします。観測変数とは、私たちが実際にデータとして得られるもの、たとえば音声信号、文字、あるいは傘の有無などです。これに対して、潜在変数とはその観測の背後にある、しかし直接見ることができない原因や状態のことを指します。天気や話者の意図などがこれに該当します。HMMでは、観測変数が潜在変数に依存して発生すると考え、その関係を「条件付き分布」で表現します。つまり、「ある状態であれば、こういう観測が出やすい」といった確率のつながりが前提になります。
状態の移り変わりと観測の出現はすべて確率的に決まっており、HMMではこのような確率のしくみを使って、いくつかの基本的な問いに答えることができます。まず1つ目は「評価」の問題で、ある観測の並びが、モデルのもとでどの程度起こりうるかを知りたいときに扱われます。次に「デコーディング」の問題があり、これは観測されたデータから、最もありそうな潜在状態の並びを推定するものです。最後に「学習」の問題があり、これは多くの観測データをもとに、状態遷移や観測の出現確率といったモデルのパラメータを最適化するという課題です。
この学習の過程では、「対数尤度関数」という考え方が用いられます。これは、観測データが実際にそのモデルから生成されたときの確からしさ(尤度)を、計算しやすくするために対数を取ったものです。モデルのパラメータを変化させて、この対数尤度が最大になるように調整していくことで、最も妥当なモデルが得られます。とくに、隠れた状態があるために直接最大化が難しい場合には、期待値を用いて段階的に最適化するBaum-Welchアルゴリズム(EMアルゴリズム)が使われます。
HMMは、音声認識、文字認識、自然言語処理など、時間の流れに沿って観測されるデータの解釈に幅広く利用されています。目に見えるデータから目に見えない仕組みを推定しようとするその姿勢は、人間の認知や判断にも通じるものであり、知的な推論のモデルとしても魅力的です。
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