Monday, July 28, 2025

水面に映る共生の風景 ― 長野県安曇野市における水田再生と生態系の復元(2003年)

水面に映る共生の風景 ― 長野県安曇野市における水田再生と生態系の復元(2003年)

2003年、長野県安曇野市では、都市化や農業構造の変化によって増加した休耕田を活用し、生態系の再生を目的とするビオトープの造成が本格的に進められていた。バブル経済崩壊後の農業の低迷と高齢化により、水田の維持管理が困難になる地域が増加する中で、安曇野は自然と人間の共生を目指す先進的なモデル地域として注目を集めていた。

こうした中、地元住民とNPOが連携し、休耕田を単なる放棄地とせず、積極的に湿地環境として再生させる取り組みが始まった。土地を掘り下げて水を張り、ヨシやガマなどの水辺植物を植栽し、トンボやゲンゴロウ、水鳥などの生息環境を整備することで、多様な生物の再定着が確認された。特に準絶滅危惧種のトンボの復活は象徴的であり、ビオトープの効果を実証する成果となった。

この取り組みは単なる環境整備ではなく、地域社会の再生にもつながっている。管理には地域住民が定期的に関与し、草刈りや清掃、モニタリング調査などを通じて、生物多様性の保全が「自分ごと」として共有されている。また、都市部の学校との連携による環境学習の受け入れなど、教育的機能も果たしており、都市と農村の交流の場にもなっている。

安曇野の水田ビオトープは、耕作放棄地という課題を生態系の回復と地域活性化の好機へと転換した好例であり、持続可能な地域づくりの象徴として、今なお多くの自治体のモデルとなっている。

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